2025/06/05 13:30
一般的に、輪島塗は以下のように作っていきます。
いよいよ後編です。
塗りの工程に入ります。
6.中塗り
下地と上塗りをつなぎ、美しさを作りだす土台
中塗りの工程に移ると、塗師(ぬりし)は下地漆より高純度で油分を含まない中塗漆を、刷毛で椀全体に塗っていきます。
生きている塗料ゆえに、漆の固まり具合は天候や湿度に左右され、日によって異なります。
塗師(ぬりし)は経験をもとに漆に調整を加え、最適の粘り具合にして塗りを行います。
浸み込ませるように漆を塗りこめた椀は、塗師風呂(ぬしぶろ:杉板で作られた漆器の収納庫)に納めて乾燥させます。
漆は水分を取り込みながら固まっていくため、温度25℃、湿度65%を基準に、温湿度調整に配慮しながら一昼夜以上、椀を寝かせます。
中塗漆をほどこした椀が乾燥したら、表面のホコリやゴミを、カンナなどで削り落とします。
その後、研ぎ師(とぎし)は、青砥石や駿河炭で、椀全面を平滑になるまで水研ぎします。
この工程を2度繰り返したのち、表面に付着した不純物を取り除き、布で磨き上げる「拭き上げ」を行い、中塗りの作業は完了します。
7.上塗り
塗りの最終工程となる上塗りでは、最上質の漆をろ過させた上塗漆を使います。
季節や天候を問わず適度な厚みとムラのない仕上がりを保てるように、塗師(ぬりし)は
漆の粘りを見ながら数種類の刷毛を使い分けて上塗漆を塗ります。
これらの作業はホコリや塵の入らないように、外気を遮断する温湿度調整のなされた上塗り専用の場所で行われます。
たとえ真夏日であろうと、塗師(ぬりし)はエアコンのない部屋で、注意を払いながら塗りの作業に集中するそうです。
塗り終えた椀は、再び、塗師風呂(ぬしぶろ)に納めます。
上塗面の漆の垂れを防ぎ一定の厚さとなるように、塗師風呂(ぬしぶろ)内に備えられた自動回転装置を定期的に回転させながら椀を寝かせます。
椀が乾燥したら、輪島塗の完成です。無地はこのまま製品になります。
こうしてみてみると、すごい手間暇をかけて作られているのがわかりますね。
さすが、伝統工芸品と呼ばれるだけのことはあります。
さらに以下のような装飾が施されていく場合があります。
その場合、上記工程のあとに装飾が施されていきます。
・蒔絵(まきえ)
器に筆で漆を使い文様を描き、乾かないうちに金銀粉を蒔きつけ、漆の粘着力で文様部分に金、銀を定着させる技法を蒔絵(まきえ)といいます。
貝殻をはめ込む螺鈿(らでん)も蒔絵の技法にあたります。
文様を高く盛り上げて立体感をつける「高蒔絵」では、粒子の細かさで遠近法を表す工夫がなされるなど、
他にも様々な表現技法を持つ、輪島塗の代表的な装飾のひとつです。
・沈金(ちんきん)
器を沈金ノミで削りながら文様や絵柄を彫り込み、できた溝に漆を塗りこみ、
そこに金箔や金銀粉を押しこんで接着させる技法を沈金(ちんきん)といいます。
溝の角度や深さに変化をつけることにより、緻密で立体感ある仕上がりとなります。
器に塗られた漆に十分な厚みがなければ成り立たない沈金は、下地・中塗り・上塗りと、
たっぷり漆を塗り重ねる輪島塗に最適の技法でもあります。
江戸時代より新たな技法開発に向けて試行錯誤を続けた結果、現在では高度な沈金技術は輪島塗の特色となっています。
・蒔地(まきじ)
“地の粉(じのこ)”を器の表面に蒔く技法を蒔地といいます。
蒔地の魅力は、ザラザラした“地の粉(じのこ)”の質感と、金属のスプーンなどを使っても傷の入りにくい丈夫さです。
食器に用いると使い勝手が良くなります。
・乾漆(かんしつ)
乾いた漆を粉砕して粉状にしたものを、器の表面に蒔く技法を乾漆といいます。
表面がザラザラしており、傷の入りにくい加工です。
蒔地との違いは漆を使用している点ですが、同じように耐久性に富み、食器などに使われる技法です。
蒔地よりもソフトな質感が特徴です。
こうして、幾人もの職人さんが輪島塗を完成させていくのですが、
前々回ご紹介したように、2024年の能登半島地震やその後の洪水被害により、工房や店舗が被害を受け、生産の再開が見通せない状況となっています。
輪島朝市周辺の火災で多くの事業所が焼失し、他にも工房などが被害を受け、材料や道具を失った事業者は多数いるといいます。
義援金の受付なども始まっています。
一度、失われてしまうと、復活させるのは、至難の業ですから、
日本の伝統工芸品を絶やさない為にも、復活してほしいものです。
#工芸品
#輪島塗
