2025/06/02 16:15

一般的に、輪島塗は以下のように作っていきます。
まずは前編です。

1.木地つくり
図面をもとに輪切りにした原木の塊を、椀の寸法より大きく削りだします。
当時の通商産業省の通達によると、
「木地はヒバやケヤキ、カツラもしくはホオノキ、またはこれらと同等の材質を有する用材とする」となっています。
粗く削られた木地の原形に、「燻煙乾燥(くんえんかんそう:煙で木地を乾燥させる)」を行い、
その後1年ほど自然乾燥で寝かせ、木地に狂いが出ないようにします。
無塗装の段階で、しっかりと水分を飛ばすことで、木地の変形やひび割れが起きない漆器になります。

乾燥させた木地は、ろくろで木地の内側と外側を少しずつ削ります。
椀の高さや形を測り外側を削ったら、深さを確かめて内側を削ります。
繊維が透けて見えるぐらいに木地を薄く削りだすと、椀木地(わんきじ)の完成です。

2.木地固め(下地づくり)
椀木地(わんきじ)が完成したら、木地を補強する工程に入ります。
塗師は、木地の接合部や亀裂などを、小刀で浅く彫ります。
彫った箇所に、塗る器に合わせてヘラを使い、「こくそ漆」を用いて成形します。
これも通商産業省の通達にあります。
こくそ漆は形状を変える為や、木の粗を隠すために漆を厚く塗る用途で使われる漆です。
ちなみにこくそとは、生漆とケヤキの粉に少量の米糊を混ぜたものです。

次に木地面に塗る漆の接着をよくするために、磨きます。
木地全面に生漆をヘラや刷毛で薄く塗って布で拭い、木地の吸水性を抑えます。
この「木地固め」の作業により木地が補強されるのですが、輪島塗では、さらに強度をあげるための工程を行います。

3.布着せ(ぶぎせ)(下地づくり)
「布着せ」をすることも通商産業省の通達に要件としてあります。
「布着せ」とは、椀木地(わんきじ)の縁や薄く壊れやすい部分に、着せもの漆(生漆と米糊とを混ぜたもの)を接着剤に用いて、
麻布や寒冷紗(かんれいしゃ)などの布を貼りつける工程です。
輪島塗の特徴の一つでもあります。
布と木地とが完全密着することにより、木地の耐久性と強度が増します。
その後、乾燥した木地を研ぎ師(とぎし)が砥石で研ぎあげ、木地表面を整えます。

4.惣身地付け(そうみじつけ)(下地づくり)
「布着せ」した木地が乾燥したあと、布と木地との境目にヘラで惣身(そうみ)漆
(ケヤキの炭化させた木粉である惣身粉に、生漆、米糊を混ぜたもの)を塗り平らにします。
この工程を「惣身地付け(そうみじつけ)」と呼びます。

「惣身(そうみ)地付け」は、一辺地付け・二辺地付け・三辺地付け、と呼ばれる3段階の下地塗りの工程を総称しているそうです。
各工程では段階ごとに成分と配合割合を変えた、合わせ漆(米糊と生漆を練り合わせたもの)と“地の粉(じのこ)”を混ぜた下地漆を、木地に塗り重ねていきます。
“地の粉(じのこ)”は輪島塗の下地に用いる材料で、能登半島で採れる珪藻土を焼き、精製して作られた粉で、
粒度によって一辺地、二辺地、三辺地に分類されます。

輪島塗の下地には、異なる粒子(一辺地付けに用いる粒子が最も粗く、工程が進むにつれて細かくなる)の
“地の粉(じのこ)”が丹念に塗り重ねられています。
ガラス質で微細な孔の無数にある“地の粉(じのこ)”に漆が浸透することにより木地は、他の産地の漆器にはない硬度を備えるのです。

5.下地づくり(最終工程)
「惣身(そうみ)地付け」の最初の工程である一辺地付けでは、合わせ漆と一辺地用粉を練り合わせた下地漆を、
塗師(ぬりし)がヘラを使い何度かに分けて椀に塗りこみます。
特に丈夫に仕上げたい上縁は強度を増すために、生漆を桧皮(ひかわ)ヘラで塗りつけます。
この技法は「地縁(じぶち)引き」とよばれる、輪島塗の伝統技法です。

一辺地付けが終了すると、乾くまで椀を寝かせておきます。
乾いた椀には研ぎ師(とぎし)が砥石で「空(から)研ぎ」をかけ、次の二辺地付けで下地漆がなじみやすいように表面を滑らかにします。
同様の手順で三辺地付けまで、塗る・乾かす・研ぐ作業が、繰り返し行われ、堅牢さを誇る「本堅地(ほんかたじ)」技法による下地が出来上がります。

下地づくりの全工程を終えると、研ぎ師(とぎし)が仕上げをします。
砥石とサンドペーパーで水研ぎをする「地研ぎ」で、表面に残っている盛り上がりなどを平滑にならし、
器を出来上がり寸法と同じ正確な形に研ぎあげます(挽き物に関しては、ろくろを使用します)。
研ぎの完成度は次の中塗りの作業に大きく影響するので、研ぎ師(とぎし)は気を抜けません。
ザラつきのない、つるりとした手触りになるまで、様々な砥石を使い分けて細部にいたるまで研ぎあげます。

この後、やっと塗りの工程に入るのですが、それは次回また説明します。

それにしても凄い手間暇をかけて作っていますね。
伝統工芸品と呼ばれて、長く続いているのも納得です。


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